1992年8月14-16日
ハンガリー ハンガロリンク
異次元のマシン FW14B を駆使して開幕から圧倒的な強さを見せ付けたマンセル(ウイリアムズ)は、
前戦ドイツGPでも優勝し早くもチャンピオンに大手をかけた。
ここハンガリーでチャンピオンが決まれば、16戦中11戦目の決定という最短記録になる。 一方のマクラーレン陣営は、チャンピオンシップポイントでは大きく差をつけられてしまったが、 このレースからトラクションコントロールを採用するなど攻めの姿勢は忘れない。 さらにハンガロリンクは低速コースなので中・高速コースに比べてシャシー性能差が出にくく、 善戦が期待されていた。 それでもセッションが始まると、ウイリアムズ有利は変わらなかった。 各車、埃っぽいハンガロリンクの路面に手を焼きスピンを喫する。 セナも滑りやすい路面に加えて慣れないトラクションコントロールの影響か、 何度かスピンを喫しながら金曜・土曜共にウイリアムズ2台に続く3位。 ただいつもと違っていたのは、金曜フリー走行からセッションの首位に立っていたのは マンセルではなくパトレーゼ(ウイリアムズ)だということだった。 これも初めてのチャンピオンへのプレッシャーなのか? 決勝レースではセナが好スタート。 コース外側から2番グリッドのマンセルをかわし、パトレーゼに続き2位で1コーナーをクリアしていく。 マンセルはベルガー(マクラーレン)にもかわされ、4位に落ちる。 やはりいつものマンセルとは何かが違う。 パトレーゼはまるでいつものマンセルのように快調に2位以下を引き離し、 2位以下はセナを先頭に集団で周回を重ねていく。 4位マンセルも落ち着きを取り戻して8周目にベルガーを捕らえて3位へ。 次はセナ追撃に出る。 マンセルはすぐにセナの背後につくが、しかし曲がりくねったハンガロリンクのコースを利して セナはマンセルに全く隙を与えず、完全に封じ込めていく。 いつものマンセルなら強引にでも抜きにかかるところだが、 逆に31周目にベルガーに抜かれ4位へ後退し、34周目には再びベルガーをかわし3位に上がるなど、 ペースが安定しない。 一方トップのパトレーゼは、2位セナに30秒以上もの大差をつけて独走状態であったが、 39周目に単独スピンを喫し、7位まで順位を落としてしまった。 マーシャルによる押しがけでコース復帰したパトレーゼがレギュレーションに違反するかとも心配されたが、 その必要はなかった。 パトレーゼは55周目にエンジントラブルでリタイアしている。 これでセナ1位、マンセル2位に繰り上がった。 セナはここが勝負どころと判断し、周回遅れの処理を利用してスパート。 手間取るマンセルを尻目に、一気に差を広げていった。 逆にマンセルはタイヤをパンクさせ、ピットインを余儀なくされた。 パトレーゼがリタイアした時点で、マンセルは3位になればチャンピオンを決定できる状況にあった。 マンセルは6位でコースに復帰すると、何か吹っ切れたのかここからはいつものマンセルらしい走りが見られた。 シューマッハー(ベネトン)がリタイアして自動的に5位に上がると、 66周目にはハッキネン(ロータス)、67周目にはブランドル(ベネトン) をかわしあっという間に3位まで上がった。 このままゴールしてもチャンピオンは決まるのであるが、マンセルの勢いは止まらない。 69周目にはベルガーをもかわし2位にまで順位を回復した。 なんとこのレースだけでベルガーを3度もオーバーテイクしている。 マンセルにとって出入りの激しいレースだったが、これも彼のレース人生を象徴しているようだった。 中盤に的確な判断でスパートしていたセナは、終盤には独走態勢を築いていた。 セナは残り10周というところでタイヤ交換のためピットインするが、首位は安泰。 さすがのマンセルもセナまでには届かず、そのままレースを締めくくった。 セナがモナコ以来の優勝を飾り、マンセル2位でゴールし初めてのワールドチャンピオンに輝いた。 過去何度もチャンピオンに手が届くところにいながら、もう一歩のところで逃してきたマンセル…。 その速さが認められながらも、いつも最後の最後で勝利の女神に見放され「無冠の帝王」と呼ばれたマンセル…。 そのマンセルにセナが暖かい言葉をかける。 「僕らはレースを愛している。チャンスを追い、リスクを背負い、 時には大切な物を犠牲にして悲しみを味わう時もある。 でもそれは全て、ナンバーワンという地位を獲得するためなんだ。 ナイジェルはこれまで長い間それを待ち望んでいた。 僕には彼の気持ちがよくわかるよ。」 その一方でセナは、レースの終わった夕刻にはウイリアムズチーム代表のフランク・ウイリアムズと密談していた。 またレース前には元ワールドチャンピオンのジェームス・ハントに 「無料でもウイリアムズであればドライブしたい」と話していたという。 チャンピオンシップが早々と決まった分、ストーブリーグはこの後熾烈を極めることになる。 セナはレーサーの本能に従い、残された消化レースにも全力を尽くし見事なパフォーマンスを見せる一方で、 その目はすでに来シーズンに向いていた。 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
PP |
リカルド・パトレーゼ | ウイリアムズ・ルノー | 1'15"476 |
2位 |
ナイジェル・マンセル | ウイリアムズ・ルノー | 1'15"643 |
3位 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 1'16"267 |
4位 |
ミハエル・シューマッハー | ベネトン・フォード | 1'16"524 |
5位 |
ゲルハルト・ベルガー | マクラーレン・ホンダ | 1'17"277 |
6位 |
マーティン・ブランドル | ベネトン・フォード | 1'18"148 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
優勝 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 1゚46'19"216 |
2位 |
ナイジェル・マンセル | ウイリアムズ・ルノー | 1゚46'59"355 |
3位 |
ゲルハルト・ベルガー | マクラーレン・ホンダ | 1゚47'09"998 |
4位 |
ミカ・ハッキネン | ロータス・フォード | 1゚47'13"529 |
5位 |
マーティン・ブランドル | ベネトン・フォード | 1゚47'16"714 |
6位 |
イワン・カペリ | フェラーリ | 1Lap |
FL |
ナイジェル・マンセル | ウイリアムズ・ルノー | 1'18"306 |