セナは開幕以来、1戦ごとのスポット契約をしていたが、このフランスGP前にマクラーレンと正式契約を交わした。
年間契約が結ばれなかった表向きの理由は、
セナが要求する額(2000万ドル・24億円)とマクラーレンチームが提示する額(1500万ドル・18億円)
との年俸の折り合いがつかなかったからとされ、それについて非難もされた。 しかし1戦ごとの契約には、フォードのワークスエンジン獲得のための駆け引きも含まれていて、 さらにセナはその年俸のかなりの額をブラジルの恵まれない子供たちに寄付していたという。 このことは秘密にされセナの死後に明らかになった。 これらのことからも、ただ単純に金欲のために契約を渋っていたわけではないようだ。 セナはレギュラードライバーとしてマクラーレンのマシンに乗り込む。 しかし予選が始まると、ウイリアムズとともに地元フランスのルノーエンジンを擁し、 マニ・クール本拠地とするリジェが好走を見せる。 金曜日はウイリアムズ勢とシューマッハー(ベネトン)に次ぎ4位だったものの、 土曜になるとシューマッハーは抑えたが代わりにリジェのブランドル、ブランデルに先行され5位に落ちた。 ルノーエンジンは上位4台を占めた。 セナは金曜日にマシンバランスに悩まされたものの、土曜日には何の問題もなかったという。 しかしそれでもルノーのエンジンパワーには対抗すらできなかった。 セナはフジテレビのカメラに「ホンダがいなくて寂しいよ」と本音が出る。 ちなみにPPはプロストを抑えたヒル。 プロストは新兵器のABS(アンチロック・ブレーキ・システム)に手を焼き、 よりによって地元フランスでこの年初めてPPを奪われた。 決勝レースでは無難なスタートを切ったが、ルノー4台の牙城は崩すことはできず、序盤は5位で周回を重ねていく。 コーナーで4位ブランデルに接近するが、ストレートで引き離される…その連続でペースが上がらない。 一方セナの背後にはシューマッハーが一定の間隔で様子を見ている。 順位が動いたのは21周目。必死に4位をキープしていたブランデルがデ・チェザリス(ティレル)を周回遅れにする際に コースアウトしリタイア。セナは自動的に4位に浮上し、ペースを上げブランドル追撃に向かう。 26周目にはそのブランドルが真っ先にタイヤ交換のためピットに向かうが、 セナとシューマッハーもその翌周にピットイン。 そしてこの3人が接近し3位集団を形成していく。 3位争いは中盤までこう着状態が続いたが、レースの約3分の2が過ぎたところで各車作戦が分かれてきた。 45周目にシューマッハーが2回目のタイヤ交換を行い、ブランドルもその2周後にピットに入った。 しかしセナだけはピットに戻らず、1回のタイヤ交換で走り切ろうとしていた。 順位はピットインの間にシューマッハーがブランドルをかわし4位になり、3位セナを追い上げていた。 そしてシューマッハーはセナの背後に追いつく。 セナも古いタイヤながらも絶妙なライン取りとマシンコントロールでそう簡単には抜かせない。 しかし残り9周となった64周目にシューマッハーがエンジンパワーを利してセナをかわしていった。 セナはその後も苦しいタイヤながらも後方から来るブランドルは押さえ、4位でフィニッシュした。 結果から見るとシューマッハーの判断が正しかったと言える。 シューマッハーは力ずくでセナを抜きにかかるのではなく、ピット作戦を利用して対抗していった。 このような戦法が後々の彼のスタンダードな戦い方になり、 時代とマッチしてセナ亡き後のF1の主役として活躍していく。 ただセナにしてみれば、シャシーもエンジンもベネトンに劣るとされるマクラーレンのマシンで、 シューマッハーをあそこまで抑えきったこと自体がすごいことなのかもしれない。 「2回目のタイヤ交換はやらなかった。シューマッハーの作戦を見てからでも遅くないと思った。 もし、シューマッハーのピット作戦が手間取るようなら、タイヤを換えたかもしれない。 でも、パワー不足の僕にそれは許されなかった。消極的にならざるを得なかった。」 皮肉なことに、セナが正式契約をしたこのフランスGP以降、しばし表彰台から遠ざかることになる。 高速コースが続く中盤戦で、ウイリアムズはもちろん、ベネトンにも遅れを取り苦戦を強いられる。 これには、高速コーナーで不安定なシャシーやパワー不足のエンジンなど、マクラーレンのマシンの素性の問題とともに、 セナがスポット契約によってテストが十分に行えず開発が遅れたことも要因の一つのようだ。 セナはメカニズムや技術理論にも強く、マシンの問題点を指摘しすぐに改良作業を行うが、 それが結果として表れるにはもうしばらく待たなければならなかった。 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
PP |
デイモン・ヒル | ウイリアムズ・ルノー | 1'14"382 |
2位 |
アラン・プロスト | ウイリアムズ・ルノー | 1'14"524 |
3位 |
マーティン・ブランドル | リジェ・ルノー | 1'16"169 |
4位 |
マーク・ブランデル | リジェ・ルノー | 1'16"203 |
5位 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・フォード | 1'16"264 |
6位 |
ジャン・アレジ | フェラーリ | 1'16"662 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
優勝 |
アラン・プロスト | ウイリアムズ・ルノー | 1゚38'35"241 |
2位 |
デイモン・ヒル | ウイリアムズ・ルノー | 1゚38'35"583 |
3位 |
ミハエル・シューマッハー | ベネトン・フォード | 1゚38'56"450 |
4位 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・フォード | 1゚39'07"646 |
5位 |
マーティン・ブランドル | リジェ・ルノー | 1゚39'09"036 |
6位 |
マイケル・アンドレッティ | マクラーレン・フォード | 1Lap |
FL |
ミハエル・シューマッハー | ベネトン・フォード | 1'19"256 |