1993年 カナダGP


1993年6月11-13日
カナダ ジル・ビルヌーブ サーキット

予選:8位 決勝:18位


前戦モナコGPで5年連続6回目の優勝を飾り、ポイントリーダーとしてカナダに乗り込んできた。 モナコでは勝利の女神はセナに微笑んだが、 このカナダでは運に見放されることになる。

ジル・ビルヌーブ サーキットは、 前年の1992年にウイリアムズが大躍進する中、セナが唯一PPを奪った場所でもある。 しかしこの年は予選でマシンバランスに苦労する。

このサーキットは路面の所々に小さなバンプがある。 そのバンプとマクラーレンのアクティブサスペンションが合わなかったようだ。 金曜8位、土曜7位。2日間のベストタイムでは8番手。 予選8位からのスタートはフジテレビのF1中継が始まってからのワースト。


ちなみに予選終了後、カナダGP審査委員会は ローラ以外のマシンが技術規則に違反しているとの決定を下した。 該当するのはアクティブサスペンションとトラクションコントロールである。 今回は各チームのレースへの参加は認められたものの、 これが翌年のハイテク規制のレギュレーション改正への伏線へとなっていく。


日曜日、予選では奮わなかったセナだったが、このまま終わるセナではない。 決勝レースでは抜群のスタートダッシュを決める。 スタート直後のアイランド・ヘアピンまでにシューマッハー(ベネトン)、 ブランドル(リジェ)、パトレーゼ(ベネトン)をかわし一気に5位に浮上。

さらにセナはアレジ(フェラーリ)にも襲いかかる。 ピット・ヘアピンからオリンピック・ローイング・ストリップにかけてセナはアレジに並びかけ、 サイド・バイ・サイドを越えてお互いのタイヤが互い違いになるほどだった。 非常に接近した戦いだったが、そこには危険な空気は全くなかったという。 アレジは後にこう語っている。


「カナダのヘアピンの後には300km/h以上で抜ける高速のS字があったから、 僕は一瞬どうしようか迷った。…最後に僕は、『相手はアイルトンだ』と結論した。 つまり全開で加速を続けたんだ。」

「アイルトンは本当にすごく強かったんだ。まず第一に全くミスをしなかった。 そしてものすごく正確だった。だから彼と戦うのは楽しみだったんだ。」

「相手によっては、ぶつかるんじゃないか、 ミスをするんじゃないかと不安を感じながら戦うこともしばしばある。 でもアイルトンと戦う時にはそこに問題は発生しないのだと、お互いわかっていたんだ。」  (「Number PLUS 2000」より)


アレジも見た目のアグレッシブなドライビングとは逆に、 非常に繊細なマシンコントロールを併せ持っていると言われている。 セナもアレジもお互いを信頼してこそできたことだったのかもしれない。 今宮さん曰く「魂のサイド・バイ・サイド」

2周目にはピット・ヘアピンでベルガー(フェラーリ)もとらえ、 8位スタートからあっという間にウイリアムズの2台に続く3位にジャンプアップした。 1位はヒル(ウイリアムズ)だったが、6周目のピット・ヘアピンでプロストがトップに躍り出る。 セナはしばし3位を走行。

30周目前後になると、各車タイヤ交換のためピットイン。 ヒルは30周目にピットインするが、タイヤの用意ができていなく16秒以上もタイムロスをしてしまう。 翌周にはセナもピットインしたがこちらは5秒でコースへ送り出す。 これでセナは2位に浮上した。

しかしプロストとはこの時点で30秒以上もの大差が開いていて、 さらに中盤から終盤にかけては後方からはシューマッハーが迫っていた。 ガソリンが軽くなったベネトンはウイリアムズに匹敵するほど速い。 セナとシューマッハーは互いにファステストラップを出しながら周回を続けるが、 少しずつその差は小さくなっていった。

そして2人は1秒前後の間隔で周回を重ねていたが、 レースも残り6周の63周目に突然セナのマシンがスローダウンしてしまった。 勢いがなくなりふらつくセナの右フロントタイヤと 背後に迫りセナをかわそうとしたシューマッハーの左リアタイヤが少し接触したように見えた。

セナのマシンには電気系統・オルタネーターのトラブルが発生していて、 前の周から調子がおかしかったようだ。 セナは手を上げながらコース脇にマシンを止めた。 残り周回数の関係で、18位完走扱いとなった。

「がっかりしている。エンジンがバラつきはじめ、そのことに集中していたせいで、 シューマッハーが僕のアウト側に並んでいたのに気がつかなかった。 あたって申し訳ないと思っている。」

またセナは東京中日スポーツに掲載される独占手記において、次のように語っている。
「もうちょっとで(シューマッハーと)接触するところだったが、幸運なことに無事だった。 こんなことで事故ったらバカらしいし、本当に彼がゴールできて良かったと思っている」

一部では、セナは危険をかえりみず自らの利益のために手段を選ばない、というような見方もあったが、 実際は誰よりも安全に気を配り、フェアな精神の持ち主であった。

トラブルさえなければ、シューマッハーを押さえ込み貴重な2位6ポイントの可能性も高かったと思われるが、 これで優勝したプロストに再びポイントで逆転されてしまった。 ウイリアムズのハイテクマシンに慣れてきたプロストがこの後チャンピオンに向けて加速する一方で、 セナはマクラーレンの戦闘力不足、とくに高速コーナーでの不安定性に苦しめられることになる。

しかしセナ自身は、カナダで見せたアレジとのバトルのように、 レーサーとしての本能に従って、 マクラーレンのマシン性能を100%以上引き出して 常に限界ギリギリで走っていくのだった。



予選結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
PP
 アラン・プロスト  ウイリアムズ・ルノー  1'18"987
2位
 デイモン・ヒル  ウイリアムズ・ルノー  1'19"491
3位
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1'20"808
4位
 リカルド・パトレーゼ  ベネトン・フォード  1'20"948
5位
 ゲルハルト・ベルガー  フェラーリ  1'21"278
6位
 ジャン・アレジ  フェラーリ  1'21"414
8位
 アイルトン・セナ  マクラーレン・フォード  1'21"706


決勝結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
優勝
 アラン・プロスト  ウイリアムズ・ルノー  1゚36'41"822
2位
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1゚36'56"349
3位
 デイモン・ヒル  ウイリアムズ・ルノー  1゚37'34"507
4位
 ゲルハルト・ベルガー  フェラーリ  1Lap
5位
 マーティン・ブランドル  リジェ・ルノー  1Lap
6位
 カール・ベンドリンガー  ザウバー  1Lap
18位
 アイルトン・セナ  マクラーレン・フォード  オルタネータートラブル、完走扱い
 
     
FL
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1'21"500




TOPへもどる