1993年　ベルギーＧＰ

金曜フリー走行ではサーキットに衝撃が走る。 ザナルディ（ロータス）がオールージュで大クラッシュ、マシンは大破した。 ザナルディは病院に収容されたが、幸いにも大きな負傷には至らなかった。 しかしザナルディのベルギーＧＰ出走は不可能と判断され、 さらにこの年の残りの４戦のシートもポルトガル出身の若手、ペドロ・ラミーに明け渡すことになる。

ちなみにこのクラッシュの直後にセナが事故現場に差し掛かった。 セナは抜群の危機回避能力でザナルディのマシンを避けランオフエリアでコース壁に接触しマシンを止めるが、 スピードを落とさなかったとして注意を受けている。

予選ではセナは金曜４位。しかし、３位シューマッハー（ベネトン）には１秒、 ウイリアムズのヒル、プロストからは2.5秒以上も離されている。 土曜日になると自己タイムを更新し前の３台との差も若干詰めるが、 同時にアレジ（フェラーリ）に厘差ながら逆転され５位に落ちる。 ちなみに６位には無限エンジンとマクラーレン製のアクティブサスを搭載したフットワークの 鈴木亜久里が滑り込む。彼は午前中のフリー走行ではプロスト、シューマッハーに続いて３位だった。

決勝レースでは、この年お馴染みのセナのロケットスタートで一気に２位に浮上。 しかしウイリアムズとのマシンの差は如何ともしがたく、 １位のプロストを追うどころか３位ヒルに追い立てられる。 ２周目のケメルストレートでルノーエンジン利してヒルはセナをかわしていった。

セナはしばし単独で３位を走行していた。 しかし少しずつマシンにバイブレーションが発生しはじめ、 さらに後方からはスタートで失敗したシューマッハーが迫っていた。 シューマッハーはやがてセナの背後につけるが、オーバーテイクするまでには至らない。 シューマッハーのベネトンの方が明らかにペースは速かったが、 見事なライン取りでセナはシューマッハーに隙を与えない。

コース上でセナを抜くのは難しいと判断したのか、 ベネトン陣営は早めにタイヤを替えるという現状打開策に出た。 シューマッハーは12周終了時にピットイン。 セナもその１周後にピットインし素早い作業でコースに復帰するが、 すでに本コース上を走っていたシューマッハーは勢いづいていた。 コース外の芝に左タイヤを落としながらも、ピットアウトしていたセナの横を通過していった。

このときセナがシューマッハーを故意に幅寄せしコース外に追いやろうしたようにも見えた。 しかし本当はピットの出口がとても滑りやすくなっていて、セナも横滑りしてしまったため、 結果的にシューマッハーをコース外にはみ出させてしまったようだ。 実際、パトレーゼ（ベネトン）はここでスピンを喫している。

セナはその後、誰とバトルすることもなく単独で４位を走行。 ハンドリングに悩まされ、さらに中盤以降はマシンのバイブレーションも悪化していたが、 マシンをゴールまで導き、４位でチェッカーを受けた。 マクラーレンにとっては苦しい夏場が続くが、 セナ自身のドライビングはマシンのポテンシャルを最大限に引き出し、 終始全く乱れぬ安定した走りだったと思う。

ちなみにレースはヒルが実力で優勝を勝ち取り連勝。 シューマッハーはプロストをもかわし２位へ。 プロストがハンドリングのトラブルを抱えていたとはいうものの、 終盤のガソリンが軽くなったベネトンはウイリアムズに匹敵するほど速かった。 また、デビュー10周年を迎えた地元ベルギーの実力者ブーツェンはこのレースの最後にＦ１を引退。 「振り向けばブーツェン」と呼ばれた魅力的なレーサーがまた一人去っていった。