前戦サンマリノでマクラーレン移籍後初勝利をあげ、得意のモナコに乗り込んできた。 セナは予選から他を圧倒する走りを見せる。 木曜、土曜共に最速。特に土曜日はPPがほぼ決定的になった後も一人異次元のラップを刻み続け、 最終的にはチームメイトのプロストをも1.5秒近く引き離してしまった。 このときのセナは、無意識で本能のおもむくままにマシンを走らせたそうだ。 そしてある時ふと我に返って、意識の理解を超えた走りをしていたことに恐怖を感じたのだという。 このあたりが常人では理解できないような領域だったのかもしれない。 決勝レースもセナが無難なスタートを切り、 予選2位のプロストは予選3位のベルガー(フェラーリ)に1コーナーを奪われ、 しばし押さえ込まれながら3位を走行。 レースは大きな波乱もなく中盤過ぎまでこのオーダーで進んでいく。 ベルガーに押さえ込まれていたプロストだったが、ついに54周目にベルガーと捕らえ2位に浮上。 しかし1位セナとは残り25周ほどのこの時点で46秒以上もの大差がつけられていた。 ここでプロストは考えた。まともに走ってセナに追いつくことはできない。 それなら自分がペースダウンしてセナの「変化」を誘おうと…。 プロストはペースダウンし、そのことはロン・デニスを通じて無線でセナに伝わる。 チームとして1-2フィニッシュを決めたいデニスは、 セナにもペースダウンさせ、無用なアタックはしないように指示する。 しかしこのことがセナに「変化」をもたらす。 それまで全力で走っていたのに急にペースダウンしようとしたので集中力が乱れた。 67周目のトンネル前のポルティエコーナーで右後輪がガードレールに軽くヒットした。 衝撃自体は大きいものではなかったが、それでコントロールを失ったセナのマシンは そのままコーナーを直進し反対側のガードレールに突っ込んでしまった。 セナはマシンを降りて何が起きたか完全に理解できないまま呆然とする。 走り過ぎていくプロストを見ながら、ヘルメットのストラップをわなわなといじくる。 この後セナはピットに戻ることなくそのままモナコのマンションに帰り、一人泣いていたという。 セナはプロストの「見えない作戦」にはまってしまった。 速さではセナに絶対的なアドバンテージがあったが、 この頃はまだレースでの駆け引きや戦略ではプロストが長けていた。
それまで全力で投げているところに突然、適当に力を抜くということはとても難しいことなのかもしれない。 小林投手は独特のサイドスローだったので、高めの球を投げにくいといった理由もあったかもしれないが、 一見信じられないような小林投手の暴投と独走時のセナの単独事故とは似ているような気がした。
しかしこのレースがきっかけで自らの問題を再認識し、克服しようと努力した。 セナの家族、特に心理学者の姉・ビビアーニさんの力で精神的安定を取り戻し、 自らの内面を鍛えていった。 攻撃的な自分と冷静な自分とを完全にコントロールするクリア・マインドを身につけていったのだという。 この1レースだけを見ればリタイア・0ポイントと、マイナスだったかもしれないが、 セナの人生においては多くのことを学び、 歴史に残る偉大なレーサーへのターニング・ポイントだったと思う。 そしてセナは、神に近づいていったという…。 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
PP |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 1'23"998 |
2位 |
アラン・プロスト | マクラーレン・ホンダ | 1'25"425 |
3位 |
ゲルハルト・ベルガー | フェラーリ | 1'26"685 |
4位 |
ミケーレ・アルボレート | フェラーリ | 1'27"297 |
5位 |
ナイジェル・マンセル | ウイリアムズ・ジャッド | 1'27"665 |
6位 |
アレッサンドロ・ナニーニ | ベネトン・フォード | 1'27"869 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
優勝 |
アラン・プロスト | マクラーレン・ホンダ | 1゚57'17"077 |
2位 |
ゲルハルト・ベルガー | フェラーリ | 1゚57'37"530 |
3位 |
ミケーレ・アルボレート | フェラーリ | 1゚57'58"306 |
4位 |
デレック・ワーウィック | アロウズ・メガトロン | 1Lap |
5位 |
ジョナサン・パーマー | ティレル・フォード | 1Lap |
6位 |
リカルド・パトレーゼ | ウイリアムズ・ジャッド | 1Lap |
リタイア |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 66周、アクシデント |
FL |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 1'26"321 |