1988年 モナコGP


1988年5月12日・14日-15日
モナコ モンテカルロ市街地コース

予選:PP(19回目) 決勝:リタイア


前戦サンマリノでマクラーレン移籍後初勝利をあげ、得意のモナコに乗り込んできた。

セナは予選から他を圧倒する走りを見せる。 木曜、土曜共に最速。特に土曜日はPPがほぼ決定的になった後も一人異次元のラップを刻み続け、 最終的にはチームメイトのプロストをも1.5秒近く引き離してしまった。

このときのセナは、無意識で本能のおもむくままにマシンを走らせたそうだ。 そしてある時ふと我に返って、意識の理解を超えた走りをしていたことに恐怖を感じたのだという。 このあたりが常人では理解できないような領域だったのかもしれない。

決勝レースもセナが無難なスタートを切り、 予選2位のプロストは予選3位のベルガー(フェラーリ)に1コーナーを奪われ、 しばし押さえ込まれながら3位を走行。 レースは大きな波乱もなく中盤過ぎまでこのオーダーで進んでいく。

ベルガーに押さえ込まれていたプロストだったが、ついに54周目にベルガーと捕らえ2位に浮上。 しかし1位セナとは残り25周ほどのこの時点で46秒以上もの大差がつけられていた。 ここでプロストは考えた。まともに走ってセナに追いつくことはできない。 それなら自分がペースダウンしてセナの「変化」を誘おうと…。

プロストはペースダウンし、そのことはロン・デニスを通じて無線でセナに伝わる。 チームとして1-2フィニッシュを決めたいデニスは、 セナにもペースダウンさせ、無用なアタックはしないように指示する。

しかしこのことがセナに「変化」をもたらす。 それまで全力で走っていたのに急にペースダウンしようとしたので集中力が乱れた。 67周目のトンネル前のポルティエコーナーで右後輪がガードレールに軽くヒットした。 衝撃自体は大きいものではなかったが、それでコントロールを失ったセナのマシンは そのままコーナーを直進し反対側のガードレールに突っ込んでしまった。

セナはマシンを降りて何が起きたか完全に理解できないまま呆然とする。 走り過ぎていくプロストを見ながら、ヘルメットのストラップをわなわなといじくる。 この後セナはピットに戻ることなくそのままモナコのマンションに帰り、一人泣いていたという。 セナはプロストの「見えない作戦」にはまってしまった。 速さではセナに絶対的なアドバンテージがあったが、 この頃はまだレースでの駆け引きや戦略ではプロストが長けていた。



話は少しそれて今から20年以上も前の1982年、プロ野球の阪神・小林繁投手は、 9回裏同点でランナーが3塁にいるピンチの場面で敬遠策をとった。 キャッチャーが立ち上がりバッターから大きく離れ、ピッチャーとしてはそこに軽く投げればいいだけのことであった。 しかし小林投手の投じた球はキャッチャーの遥か上方へいき、とんでもない暴投。 3塁ランナーがホームインしサヨラナ負けを喫した試合があった。

それまで全力で投げているところに突然、適当に力を抜くということはとても難しいことなのかもしれない。 小林投手は独特のサイドスローだったので、高めの球を投げにくいといった理由もあったかもしれないが、 一見信じられないような小林投手の暴投と独走時のセナの単独事故とは似ているような気がした。



セナはその後、内面にある自身の問題を整理した。 この年は新しいチームに移籍したこともあり、 シーズンオフに前年までの精神的疲れを完全に解消することができず、 内面的問題をかかえながらレースに臨んでいたという。 集中力も時々乱れていたが、セナはそのことについて特別解決しようとはしなかったと語っている。

しかしこのレースがきっかけで自らの問題を再認識し、克服しようと努力した。 セナの家族、特に心理学者の姉・ビビアーニさんの力で精神的安定を取り戻し、 自らの内面を鍛えていった。 攻撃的な自分と冷静な自分とを完全にコントロールするクリア・マインドを身につけていったのだという。

この1レースだけを見ればリタイア・0ポイントと、マイナスだったかもしれないが、 セナの人生においては多くのことを学び、 歴史に残る偉大なレーサーへのターニング・ポイントだったと思う。 そしてセナは、神に近づいていったという…。



予選結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
PP
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  1'23"998
2位
 アラン・プロスト  マクラーレン・ホンダ  1'25"425
3位
 ゲルハルト・ベルガー  フェラーリ  1'26"685
4位
 ミケーレ・アルボレート  フェラーリ  1'27"297
5位
 ナイジェル・マンセル  ウイリアムズ・ジャッド  1'27"665
6位
 アレッサンドロ・ナニーニ  ベネトン・フォード  1'27"869


決勝結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
優勝
 アラン・プロスト  マクラーレン・ホンダ  1゚57'17"077
2位
 ゲルハルト・ベルガー  フェラーリ  1゚57'37"530
3位
 ミケーレ・アルボレート  フェラーリ  1゚57'58"306
4位
 デレック・ワーウィック  アロウズ・メガトロン  1Lap
5位
 ジョナサン・パーマー  ティレル・フォード  1Lap
6位
 リカルド・パトレーゼ  ウイリアムズ・ジャッド  1Lap
リタイア
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  66周、アクシデント
 
     
FL
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  1'26"321




TOPへもどる