1988年 ポルトガルGP


1988年9月23-25日
ポルトガル アウトドローモ・ド・エストリル

予選:2位 決勝:6位


チャンピオンシップも大詰めを迎え、 F1はヨーロッパ・ラウンド最後のポルトガル、スペインの2週続けての連戦、 いわゆる「イベリア半島シリーズ」に突入する。

前戦イタリアGPでマクラーレン・ホンダの開幕からの連勝が11でストップしてしまったが、 チャンピオンシップを争うセナとプロストはともにノーポイント。 セナは一気に初のワールドチャンピオンに向けて加速していきたいが、 しかし、そうは簡単に王座は譲らんとばかりに、 ここからプロフェッサー・プロストが意地と底力を見せていくのである。

予選では金曜に暫定PPを決めたのは「いつもどおり」セナだったが、 土曜には早い段階でプロストが逆転。さらにプロストはセナに心理作戦を仕掛ける。 予選がまだ15分も残っているのにプロストはレーシング・スーツを脱ぎ、普段着に着替えて 再逆転を目論むセナにこう語りかけプレッシャーを与えた。

プロスト:「僕の出したタイムを、君には破ることはできないよ。」

そのプロストの言葉どおり、セナは渋滞に巻き込まれクリアラップを取れなかったこともあり、 プロストのタイムを上回ることはできず、予選2番手に甘んじた。 またセナのマシンには金曜から電気系統のトラブルを抱えていて、そのことも多少は影響したのかもしれない。

この年セナがPPをとれなかったのは3度目、プロストに予選で敗れたのは2度目。 しかしこうしてみると、珍しくPPを奪えなかったことが、 逆にセナの年間を通した安定した速さを改めて実感することができる。

イン側にプロスト、アウト側にセナ…。 決勝レースのスタートでは、多重事故が発生しやり直し。 2度目のスタートでは、セナが好ダッシュを決めるがプロストも負けずにマシンをアウト側に寄せ、 セナのラインを封じ込める。 セナはコース外の芝生に押し出されそうになりながらも、 意地で踏ん張りアウトラインからプロストをかわし1コーナーを奪っていった。

セナはスタートでのプロストのドライビングに憤慨していた。 そしてそのことが翌周の「事件」へとつながっていく…。 再びホームストレートに戻ってきたとき、プロストはセナのスリップストリームに入っていた。 そしてプロストがセナのインに並びかけようとしたとき、セナもイン側にラインを寄せていった。

プロストは300km/h程のスピードでピットウォールのスレスレまで押し出され、 それはピットウォールのサインボードをかすめる程だった。 常に冷静沈着のプロストもこの時ばかりは怒ったのだろう。 今度は逆にセナをアウト側に追いやりつつ、1コーナーを奪っていった。

セナはよく、「ブロックの名人」と言われていたが、 よく見てみると実際は効率的なライン取りをしているだけのことがほとんどだった。 しかし今回のセナの「幅寄せ」は確かに危険なものだった。 私の見る限りでは、セナのF1レース人生で、唯一の行き過ぎた「露骨なブロック」だったと思う。 おそらくは、初めてのチャンピオン獲得への執念と、 スタート時にプロストに押し出されそうになったことへの怒りなどが重なってのことだったのだろう。

レースはその後、プロストが全く危なげのない走りで優勝を飾った一方で、 セナは燃費とオーバーステアの問題を抱えながら、 カペリ(マーチ)やベルガー(フェラーリ)などの追撃でペースを乱され、 終盤にもタイヤ交換を余儀なくされたこともあり、最終的に6位でレースを終えた。

レース後プロストは、
「ワールドチャンピオンを決定するために、ああいう危険を冒さなければならないとしたら、…… チャンピオンシップなんてどうでもいいね。 彼がそんなにチャンピオンになりたいのなら、そんなものいくらでもくれてやるさ。」 と語っている。

ともあれ、このことがきっかけとなり、翌年以降の本格的な確執へとつながっていくのだった。



予選結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
PP
 アラン・プロスト  マクラーレン・ホンダ  1'17"411
2位
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  1'17"869
3位
 イワン・カペリ  マーチ・ジャッド  1'18"812
4位
 ゲルハルト・ベルガー  フェラーリ  1'18"903
5位
 マウリシオ・グージェルミン  マーチ・ジャッド  1'19"045
6位
 ナイジェル・マンセル  ウイリアムズ・ジャッド  1'19"131


決勝結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
優勝
 アラン・プロスト  マクラーレン・ホンダ  1゚37'40"958
2位
 イワン・カペリ  マーチ・ジャッド  1゚37'50"511
3位
 テイリー・ブーツェン  ベネトン・フォード  1゚38'25"577
4位
 デレック・ワーウィック  アロウズ・メガトロン  1゚38'48"377
5位
 ミケーレ・アルボレート  フェラーリ  1゚38'52"842
6位
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  1゚38'59"227
 
     
FL
 ゲルハルト・ベルガー  フェラーリ  1'21"961




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