1989年11月3-5日
オーストラリア アデレード市街地コース
前戦鈴鹿でセナはトップチェッカーを受けたものの、終盤プロストと接触しシケイン不通過のため失格となった。
表面上ではプロストのチャンピオンが決定した形になり、
さらにセナには執行猶予付きの6ヶ月の出場停止処分と罰金10万ドルが課せられた。
マクラーレンチームは直ちにこの裁定を不服として提訴した。 日本GP終了後からオーストラリアGPまでの間にFIAの調停委員会が開催されたが、 結局結論が出ないまま最終戦を迎えることになった。 日本GPでの失格がくつがえり、このオーストラリアGPで優勝すれば奇跡の大逆転チャンピオンもありえる。 セナはわずかな可能性を信じて、気を取り直してレースに臨む。 金曜日からセナとプロストのマクラーレン勢2人はレース用のタイヤでセッティングを進める。 それでもこの2人は他チームを大きく引き離していた。 金曜日はわずかにプロストリード。セナは2番手。 しかし土曜日になるとセナがスーパーラップで逆転。 プロストも対抗して必死にアタックするが、その差は0.8秒近くあった。 88年から89年にかけてセナは、チームメイトですでに2度のチャンピオンになっているプロストに対して、 予選で28勝4敗と圧倒した。 決勝レースは大雨でスタートが30分遅れた。 さらにアデレードは水はけが悪く、コースコンディションは最悪だった。 レースはとりあえず始まり、セナがプロストを抑えてトップを守っていたが、 2周目にレート(オニクス)の事故のため早くもレースは中断。 それから30分後にレースは再開されたが、そこにプロストの姿はなかった。 プロストは、コースに水が溜まり危険で、レースができるコンディションではないと判断したからだ。 セナも同じように「レースは中止されるべきだ」と感じていたようだが、棄権するわけにはいかなかった。 再スタートでセナはすぐに2位以下を引き離していった。 6周目には2位ブーツェンに28秒もの大差をつけてリード。 しかしマシンの動きはナーバスで、クルクルと3回転するなど、綱渡りのような危険をはらんでいた。 そしてセナはウォータースクリーンで視界が遮られる中、14周目に前方のブランドル(ブラバム)に追突。 左フロントタイヤをなくし、3輪でゆるゆるとピットに戻ってきた。 これでセナのチャンピオンへの可能性は完全になくなった。 セナはこの後、FIAから「危険なドライバー」の烙印を押され、 F1からの引退を考えるほど、苦悩に満ちたシーズンオフを送ることになる。 確かにこの頃のセナは多少の荒々しさがあったかもしれないが、 ヨーロッパ文化のF1に、ブラジルから入ってきた「よそ者」に対する風当たりが強かったのも事実だ。 セナはプロストなどのドライバーだけでなく、バレストル率いるFIAをも完全に敵に回してしまった。 憎まれるほど凄いとはこのことなのか? しかしセナはこの状況を自らの力で克服。 文化を越えて、歴史を越えて、F1史上でも最も偉大なレーサーとして多くのファンや関係者から認められていった。 なおこのレースで中嶋 悟(ロータス)が予選23位から確実な走りで表彰台にあと一歩の4位入賞、 さらに日本人初・唯一のファステストラップを記録し、「雨のナカジマ」を世界に知らしめた。 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
PP |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 1'16"665 |
2位 |
アラン・プロスト | マクラーレン・ホンダ | 1'17"403 |
3位 |
ピエルルイジ・マルティニ | ミナルディ・フォード | 1'17"623 |
4位 |
アレッサンドロ・ナニーニ | ベネトン・フォード | 1'17"762 |
5位 |
テイリー・ブーツェン | ウイリアムズ・ルノー | 1'17"791 |
5位 |
リカルド・パトレーゼ | ウイリアムズ・ルノー | 1'17"827 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
優勝 |
テイリー・ブーツェン | ウイリアムズ・ルノー | 2゚00'17"421 |
2位 |
アレッサンドロ・ナニーニ | ベネトン・フォード | 2゚00'46"079 |
3位 |
リカルド・パトレーゼ | ウイリアムズ・ルノー | 2゚00'55"104 |
4位 |
中嶋 悟 | ロータス・ジャッド | 2゚00'59"752 |
5位 |
エマニエル・ピロ | ベネトン・フォード | 2Laps |
6位 |
ピエルルイジ・マルティニ | ミナルディ・フォード | 3Laps |
リタイア |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 13周、アクシデント |
FL |
中嶋 悟 | ロータス・ジャッド | 1'38"480 |
*当初は81周予定だが、2時間ルール適用により70周で終了。 |