81年以降ブラジルGPはリオ・デ・ジャネイロで行われていたが、
90年からセナの地元であるサンパウロのインテルラゴスに再び舞台を移すことになった。
インテルラゴスは、セナが初めてF1グランプリレースを見て、初めてのカートレースを行ったサーキットでもある。 リオはピケの地元で、サーキット名も「アウトドローモ ネルソン・ピケ」に変更したばかりだった。 リオからサンパウロに移動したのは、財政などの具体的ないくつかの理由があるとは思うが、 ブラジル人F1ドライバーのエースがピケからセナに完全に移行したことを象徴しているのかもしれない。 憧れの同郷の先輩、エマーソン・フィッティパルディが優勝したコースを、今セナも走る…。 セナはフィッティパルディの優勝を見て、F1への想いをより強くしたという。 予選ではダウンフォース強めでアタックに臨む。 セナは金曜から最速。土曜日はセッション中に路面にオイルが残っていて、 さらにこの時点でPPは確定的だったが、セナはタイミングをはかり残り数分となったところでコースイン。 見事に自身のタイムをさらに0.5秒刻んだ。 それでもセナは「1コーナーで大きく回り込んだから0.1秒は損してるよ」と反省も忘れない。 決勝レース前、セナはスターティンググリッド上で地元の大声援を聞き、涙を流し感動する。 89~90年にかけて、FIAから不当に「危険なドライバー」の烙印を押され、F1への引退も考えた。 開幕戦はなんとか気力とテクニックで制したものの、まだ心にわだかまりを残していた。 しかしセナは地元ブラジルの大声援を聞いた時、完全にやる気を取り戻したという。 決勝レースでは、見事なスタートを切り1コーナーを制していく。 そしてブラジルの大声援を背に、危なげなく周回を重ねていく。 33周目にタイヤ交換のためピットインした際にベルガー(マクラーレン)が2周だけラップリーダーになるが、 順位が落ち着くと再びセナがトップに戻る。 レースはまだ中盤であるが、セナの地元ブラジル初優勝の雰囲気も漂ってきた。 セナはここまで地元ブラジルでは一度も勝つことができなかった。 優勝どころか、まともな成績は86年の2位くらいだった。 セナはチャンピオンになることと同じくらい、地元ブラジルでの勝利を切望してきた。 しかし今回も勝利の女神はセナに微笑んでくれなかった。 41周目、かつてのチームメイトの中嶋悟(ティレル)を周回遅れにしようとした時に接触。 セナはノーズコーンを失い、ペースを落としていく。 「コーナー3つ分、後ろについて走っていた。彼はドアを開いて、僕を通してくれるような素振りを見せていたよ。 それで、僕がインに入るとマシンを寄せてきて、 僕のマシンのノーズが彼のリヤホイールにぶつかって飛ばされてしまった。」 (「生涯 アイルトン・セナ」より」) どうやら中嶋は、セナに道を譲ろうとしてラインを外した際、 埃っぽい路面に出てしまいマシンを滑らせてしまったようだ。 しかしこのときそんな事情を知る由もないブラジルのファンは、 「ナカジマ ハラキレ~」の大合唱だったようだ。 セナはすぐにピットに戻り、ノーズを交換する。 幸いその他にマシンのダメージはなかったが、修復に23秒ものタイムロスを強いられ、 その間にプロスト(フェラーリ)とベルガーに先行されてしまった。 セナはその後も諦めることなく無難に走り切り、3位表彰台を得た。 普通なら地元での表彰台ということで喜ぶはずだが、十分に優勝を狙えるレースだっただけに、笑顔はなかった。 41周目の接触以外は完璧なレースだったと言えよう。 それでも応援してくれたブラジルのファンに3位のトロフィーを高々と突き上げた。 優勝は、この年もチャンピオンシップのライバルになるであろうプロスト。 プロストはフェラーリ移籍後初優勝。 セナはこの年も地元ブラジルで勝利をあげることができなかった。 これまで、一番勝ちたいブラジルで、不本意なトラブルや失格、そして接触などで優勝することができなかった。 すべてセナに責任があるわけではないが、どこか気合が空回りしていたのかもしれない。 しかしこの悔しさや勝利への想いが、翌年の奇跡的な地元初優勝へとつながっていくのだった。 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
PP |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 1'17"277 |
2位 |
ゲルハルト・ベルガー | マクラーレン・ホンダ | 1'17"888 |
3位 |
テイリー・ブーツェン | ウイリアムズ・ルノー | 1'18"150 |
4位 |
リカルド・パトレーゼ | ウイリアムズ・ルノー | 1'18"288 |
5位 |
ナイジェル・マンセル | フェラーリ | 1'18"509 |
6位 |
アラン・プロスト | フェラーリ | 1'18"601 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
優勝 |
アラン・プロスト | フェラーリ | 1゚37'21"258 |
2位 |
ゲルハルト・ベルガー | マクラーレン・ホンダ | 1゚37'34"822 |
3位 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・ホンダ | 1゚37'58"980 |
4位 |
ナイジェル・マンセル | フェラーリ | 1゚38'08"524 |
5位 |
テイリー・ブーツェン | ウイリアムズ・ルノー | 1Lap |
6位 |
ネルソン・ピケ | ベネトン・フォード | 1Lap |
FL |
ゲルハルト・ベルガー | マクラーレン・ホンダ | 1'19"899 |