1990年　ベルギーＧＰ

ホンダはこのレースからバージョン５エンジンを投入。 このパワーアップしたエンジンで得意のスパを攻めたいところだが、 金曜日にあわや大事故といったシーンに遭遇する。

ドネリー（ロータス）がクラッシュし、外れたタイヤが後方から近づいてきたセナのマシンに飛んできたのだ。 セナは一瞬の危機回避能力でタイヤをかわし、大事には至らなかった。 金曜予選はこの思わぬアクシデントやマシンにもアンダーステアが生じたりもして、３位に甘んじる。

しかし土曜になると「ミスターＰＰ」の本領発揮。 セナはリスクを避け、マシンと自らの限界を越えないように注意したというのだが、 それでも誰よりもタイトなラインを芸術的に走り抜けていった。 セナはチームメイトのベルガーに0.6秒の差をつけて指定席であるＰＰを獲得した。

決勝レースは薄ぐもりの中で始まっていく。 スパ特有の雨の心配はなさそうだが、しかし、スタート直後の１コーナー ラ・ソースでの混乱は今年も起きてしまった。 これで赤旗再スタート。 ２度目のスタートではラ・ソースは無事に通過したが森林区間でクラッシュが発生し、再び赤旗が振られる。

レースは３度目のスタート。 セナは「これほどプレッシャーを感じたのは初めてだ」というものの、そのプレッシャーを跳ね返し、 無難なスタートで１コーナーを制していく。セナに続いてチームメイトのベルガー、 そしてチャンピオンシップのライバルであるプロスト（フェラーリ）が続く。

序盤戦はベルガーがプロストを抑えて込んでいたが、ベルガーはタイヤに厳しくペースが落ち、 プロストにかわされて行く。この時点でトップを走るセナとは５秒の差ができていたが、 ２位に上がったプロストはジリジリとその差を詰めていく。

セナとプロストは数秒の間隔で攻防を展開。 そしてレースの半分にあたる22周目に２人はタイヤ交換のために同時にピットイン。 マクラーレンのピットは迅速な作業でセナをコースに送り込むが、 フェラーリピットは手間取り４秒も多い時間を要した。

セナがコース上に戻ると、ちょうど後方からナニーニが迫っていた。 まだ温まっていないタイヤだったが、セナはなんとかナニーニを押さえ込みオー・ルージュを駆け上がっていく。 しかし数秒遅れてレースに復帰したプロストはナニーニをかわすのに４周以上もかかってしまった。

これでセナはさらに楽になった。 レースの後半は危なげない走りで周回を重ね、結局セナは全周回１位でトップチェッカーを受けた。 スパでは３年連続４回目の優勝。モナコとともに、ドライバーの腕が試されるスパでも無類の強さを発揮した。 プロストも最後まで諦めず3.5秒差の２位でレースを終えた。

結果的にタイヤ交換とピットアウト直後の攻防がレースの分かれ目だったのかもしれない。 もしセナもナニーニに捕まっていたら、その後のレース展開は変わっていた可能性もある。 しかしセナはレースの最重要ポイントをとらえ、意地でもナニーニの前を守ったような気がする。

これでセナ63点、プロスト50点になったが、実質的な差はこの点差ほどはなく、 むしろコースによってはシャシー性能に優れるフェラーリにアドバンテージがあった。 しかしセナも自らのドライビングとホンダエンジンを駆使して、 チャンピオンに向けて熾烈な戦いを展開していくのだった。