1991年 ハンガリーGP


1991年8月9-11日
ハンガリー ハンガロリンク

予選:PP(57回目) 決勝:優勝(31回目)


ハンガリーGP前の8月5日、ホンダの創始者である本田宗一郎氏が心不全のために亡くなった。 本田氏はしばしばサーキットにも姿を見せ、「オヤジさん」と慕われていた。 本田氏は特にセナを可愛がり、セナも本田氏のスピリッツに共感し、 お互い尊敬し合っていたようだ。

本田氏は生前、自分が亡くなっても特別なことはするな、と言付けていたようだ。 ホンダのスタッフは当初、その「遺言」を守るべきか否か迷っていたが、 セナは「亡くなった本田宗一郎氏に哀悼の意を表するのは当たり前のことだ」と、 迷うことなく率先して、腕に喪章をつけてレースに臨んだという。 ホンダ、マクラーレン…すべてのスタッフが喪章をつけ、心が一つになった。 「絶対に勝つんだ!」

前戦のドイツGPでコンストラクターズ・ポイントを逆転され、ドライバーズ・ポイントでも一時は30点以上あった マンセルとの差が8点差にまで肉薄してきた。 マクラーレンは軽量化したシャシーとパワーアップしたホンダエンジン、改良したシェルのスペシャルガソリンなどで必勝を期す。 さらに、マクラーレン初のセミ・オートマも投入。こちらは決勝レースでは用いなかったが、 マクラーレン、そしてホンダの「勝利への執念」が感じられた。

ちなみに13kg軽量化したマシンは、セナのみに与えられた。チームオーダーやチーム内序列は、 存在するとしてもこのようなマシンの優先権程度に留めるべきであって、 少なくとも、コース上では自由に戦わせるべきであると思う。 順位を操作するために、べルガーがセナを前に行かせたことは一度もなかったと記憶している。

金曜予選はベルガー、セナのマクラーレン勢が1‐2。その次に来たのはプロスト、アレジのフェラーリ勢。 マンセル、パトレーゼのウイリアムズ勢はフェラーリの後ろの5・6番手。 土曜になるとウイリアムズ勢が挽回してきたが、セナはさらに1.2秒以上速かった。 モナコ以来、5戦ぶりに「定位地」のPPに帰ってきた。

決勝のスタート、PPセナと2番手パトレーゼの激しいがしかしクリーンな1コーナー争いは、 ホンダエンジンのパワーとセナの「勝利への執念」で制した。 ホンダはギリギリまで和光研究所で調整した決勝用フレッシュ・エンジンを土曜の夜にハンガリーに到着させたようだ。 ホンダにとっても、絶対に勝たなければいけないレースだった。

コーナーが多く抜きどころが少ないハンガロリンクで、セナは完璧なライン取りでパトレーゼ、マンセルを封じ込めていく。 レース序盤、セナはタイヤに異常を感じた。ピットではタイヤ交換の準備をしていたが、セナは様子を見ながらしばらく走ることにした。 結果的にこの判断は正しく、タイヤも落ち着きを取り戻した。もしここでピットインしていたら…ここが勝負の分かれ目だった。

ウイリアムズはパトレーゼ、マンセルともにブレーキにトラブルが発生し、 思い切りセナの懐に飛び込めない。中盤以降はマンセルがセナの背後につけるが、 セナを攻め落とすまでには至らない。

マンセルも負けじと45周目のホームストレートでセナの背後につき1コーナーでセナに並びかけるが、 セナはギリギリのブレーキングでマンセルを押さえこんだ。 さらに翌周以降はこの時の教訓を生かし、 最終コーナーから1コーナーにかけてマンセルにスリップストリームに入らせず、 マンセルとの間隔を完全にコントロールした。 結局セナはコーナーの要所を閉め、最後まで隙を見せずにモナコ以来のトップチェッカーを受けた。

仮にウイリアムズ勢にトラブルが発生していなくとも、この日のセナには敵わなかっただろう。 チャンピオンシップもそうだが、それ以上に親愛なる本田宗一郎氏に勝利を捧げるべく、 セナは走ったのだろうと思う。機械のように正確なドライビングの裏には、情に厚く人間臭い内面が…。 ここがセナの魅力の一つだと思う。

セナとホンダとマクラーレンと…すべての勝利への執念は天に通じた。 天国の「オヤジさん」は、前年の鈴鹿の予選後と同じように、親指を立てて 「ナンバーワン、ありがと」と微笑んでいたような気がした。



予選結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
PP
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  1'16"147
2位
 リカルド・パトレーゼ  ウイリアムズ・ルノー  1'17"379
3位
 ナイジェル・マンセル  ウイリアムズ・ルノー  1'17"389
4位
 アラン・プロスト  フェラーリ  1'17"690
5位
 ゲルハルト・ベルガー  マクラーレン・ホンダ  1'17"705
6位
 ジャン・アレジ  フェラーリ  1'18"410


決勝結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
優勝
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  1゚49'12"796
2位
 ナイジェル・マンセル  ウイリアムズ・ルノー  1゚49'17"395
3位
 リカルド・パトレーゼ  ウイリアムズ・ルノー  1゚49'28"390
4位
 ゲルハルト・ベルガー  マクラーレン・ホンダ  1゚49'34"652
5位
 ジャン・アレジ  フェラーリ  1゚49'44"185
6位
 イワン・カペリ  レイトンハウス・イルモア  1Lap
 
     
FL
 ベルトラン・ガショー  ジョーダン・フォード  1'21"547




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