1992年 カナダGP


1992年6月12-14日
カナダ ジル・ビルヌーブ サーキット

予選:PP(61回目) 決勝:リタイア


前戦モナコで歴史に残るデットヒートでマンセルの連勝を止めたセナが、 勢いそのままにカナダに乗り込んできた。 長いエンジン全開区間と低速コーナーの組み合わせの「ストップ・アンド・ゴー」 のジル・ビルヌーブ サーキットはマクラーレンに向いていて、ホンダも改良したエンジンを投入してきた。

ここまで通常のドライのコンディションでは負け知らずのウイリアムズ勢だったが、 金曜午前のフリー走行でセナが初めてセッション1位に躍り出た。 午後の予選でもその流れは変わらず、セナが久々に暫定PP。 開幕以来6戦連続PPと無敵のマンセルは4位に沈む。

土曜になるとマンセルが必死のアタックに出る。 しかし午前・午後ともにセッショントップタイムをマークするものの、 どうしても金曜のセナのタイムを上回ることはできなかった。 これは午前中に一時雨が降っていたことが影響したと思われる。 セナは前年オーストラリアGP以来、7戦ぶりのPP。 マンセルは金曜のパトレーゼのタイムにも及ばず3位からのスタート。

決勝レースではセナが好スタートを決め1コーナーへ。 マンセルも勢いよく加速しパトレーゼをかわして2位に浮上した。 しかし隊列が整うと、そのコース特性とセナの見事な無駄のないライン取りでマンセル以下を封じ込めていく。 序盤はセナを先頭に5秒以内に8台前後がひしめき合う、数珠つなぎのこう着状態。 マンセルはチャンスを伺うが、セナも全く隙を与えない。

しかしマンセルは、いい意味でも悪い意味でもこのまま何もせず妥協する男ではない。 しびれを切らせたマンセルは15周目の最終コーナーでセナのインに入った。 しかしオーバースピードでサンドトラップを直進。 マシンのパーツを飛び散らせながらホームストレートで止まった。

マーシャルがマンセルのもとに近づきマシンから降りるように促すが、 マンセルは一向に動こうとはしない。 そして1周してセナが再びホームストレートに戻ってくると、 マンセルはマシンの中から拳を突き上げてセナへの怒りを顕わにした。

マンセルはマシンを降りたが、まだ怒りは収まらない。 今度はマクラーレンのピットウォールに向かい、ロン・デニスに対して激しい口調で抗議する。 「セナがプッシュアウトした」とはマンセル。

レースはマンセルのコースアウトのどさくさに紛れてベルガーがパトレーゼをかわし2位に浮上。 この年初めてセナとベルガーのマクラーレン1-2フォーメーションが完成する。 依然として接近戦だったものの一定の間隔が保たれ、落ち着きつつあった。

セナはレースをリードし連勝も見えてきた。 しかし実際は、ギアボックスとエンジンの不調に悩まされていたという。 それでもなんとかマシンをゴールまで導こうと必死にコントロールするが、 中盤の38周目、突然マシンがスローダウンする。 エンジン制御の電気系トラブルだった。

セナは寂しげな表情でコースを見つめ、そしてピットへ戻っていく。 セナはその後プレスに、マンセルとの件を彼とはまるで対照的に冷静に語る。

「マンセルはブレーキが間に合わないとわかっていたさ。」  (「最終コーナー 続・天才ドライバーの素顔」より)

「マンセルはイン側をついてきて、すでに僕の前の方にいたんだ。 そして彼はとても曲がりきれない様なスピードでコーナーに入っていった。 加速してまっすぐ行ったんだ。サンドトラップを飛び越えようとしたんだろう。」  (フジテレビ「1992年F1総集編」より抜粋)

しかし今にして思うと、当時の個性的なドライバー達が真正面からぶつかっている姿を見ると、 微笑ましくさえ思える。 ケンカしたり称えあったり…そんな人間模様も魅力的だった。

レースはベルガーが優勝しマクラーレンは連勝。 逆にウイリアムズはパトレーゼもギアボックスのトラブルでリタイアし全滅した。 これでシリーズの流れは変わるかと思われたが…。 なお、この年デビューした片山右京(ベンチュリ)が途中5位を走る好走を見せた。(結果はリタイア)



予選結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
PP
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  1'19"775
2位
 リカルド・パトレーゼ  ウイリアムズ・ルノー  1'19"872
3位
 ナイジェル・マンセル  ウイリアムズ・ルノー  1'19"948
4位
 ゲルハルト・ベルガー  マクラーレン・ホンダ  1'20"145
5位
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1'20"456
6位
 ジョニー・ハーバート  ロータス・フォード  1'21"645


決勝結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
優勝
 ゲルハルト・ベルガー  マクラーレン・ホンダ  1゚37'08"299
2位
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1゚37'20"700
3位
 ジャン・アレジ  フェラーリ  1゚38'15"626
4位
 カール・ベンドリンガー  マーチ・イルモア  1Lap
5位
 アンドレア・デ・チェザリス  ティレル・イルモア  1Lap
6位
 エリック・コマス  リジェ・ルノー  1Lap
リタイア
 アイルトン・セナ  マクラーレン・ホンダ  37周、電気系
 
     
FL
 ゲルハルト・ベルガー  マクラーレン・ホンダ  1'22"325




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