ただでさえウイリアムズ圧勝が予想される中、
1992年をもってホンダは撤退し、93年、マクラーレンには型落ちのフォードHB V8エンジンが載る。
屈辱の92年シーズンが終わってから93年シーズンが始まるまで、セナは苦悩していた。
一年休養するか、アメリカレースへ行くか…。 セナは南アフリカGP開幕の約1週間前、シルバーストンで初めてマクラーレンのニューマシン、MP4/8に乗った。 テスト初日は久々のドライブということと、マシンの限界・ポテンシャルをいち早く探るためという理由でスピンが多かったが、 2日目にはウイリアムズ勢を抑えてのトップタイムをマーク。 このテストにおけるウイリアムズの目的はタイムを出すことではなく、 開幕戦に向けての最終調整の意味合いが強かったが、 プロストはセナの走りを見たときに驚愕したと言う。 マクラーレンはフォードエンジンこそルノーやベネトン搭載の最新型に劣るものの、 MP4/8は俊敏な動きを見せる。 セナも、チャンピオンは難しいまでもかなりいい戦いができると判断。 1戦毎のスポット契約ながら、とりあえず開幕戦に出場することを決めた。 ちなみにこのスポット契約には、契約金が合意に達しなかったこととは別に、 フォードとの最新エンジン獲得交渉を有利に進める目的もあったようだ。 こうしてセナは開幕戦に出場することになった。チームメイトは1991年のCARTチャンピオン、マイケル・アンドレッティ。 この年から3人目のリザーブドライバーが認められることになり、 これによってミカ・ハッキネンはセナに押し出される形になってしまった。 ハッキネンはしばらくレースには出られなかったが、天性の速さに加え、テストチームでマシン開発を学び、 未来のチャンピオンに向けて価値のある時間を過ごしたと思う。 (ハッキネンファンの立場からは、許せない心境だったかもしれないが…) 金曜日の午前中はセナが一番時計。午後の予選ではプロストが暫定PP、セナは0.3秒差で2位。 1992年は休養して、実戦では1年半近くのブランクがあるプロストだったが、 セッションが進むにつれて本来の走りを取り戻していく。 土曜予選、セナはコースいっぱいを使い一時プロストを一気に0.8秒も上回るタイムを記録。 しかしこの後プロストはセナを0.088秒上回り再逆転。 僅差ながらもギリギリのセナに対して、プロストにはまだ余裕が感じられる。 セナもコースインし再再逆転を狙うが、トラブルのためタイムアタックする前にマシンをコース脇に止めた。 この後、何やら話し込むセナとシューマッハーの珍しいツーショットが見られる。 決勝レースは、セナがロケットスタートで一気にトップへ躍り出る。 プロストはややスタートに失敗し、さらにヒル(ウイリアムズ)のスピンを避ける間に3位に後退。 2位に上がったのはシューマッハー(ベネトン)。 セナは快調に飛ばすが、8周目あたりから電気系とアクティブサスの油圧低下のトラブルのためペースが上がらない。 後方ではシューマッハーとプロストの2位争い。 13周目、プロストは無理をせずマシンアドバンテージを十分に生かして シューマッハーをきれいにオーバーテイク。 プロストは今度はセナとの間隔を詰め、久々の「セナ・プロストバトル」。 ペース的には明らかにプロストの方が速いが、エンジンの力が最も劣るマクラーレンのセナが、 見事なライン取りで要所要所でプロストを抑えていく。 プロストは何度もセナに並びかけるが、セナもそう簡単には自分のラインは譲らない。 セナは芸術的なドライビングで必死に応戦していたが、 とうとう24周目のホームストレートで再びプロストはセナの真横に並びかけ、 S字の1コーナーでセナのラインを封じ込めてトップに躍り出た。 ペースががくっと落ちたセナは、イエローページ・コーナーでシューマッハーにもかわされ3位へ後退。 しかしその周の終わりにはシューマッハー、セナが同時ピットイン。 マクラーレンの作業の方が早く、セナ、シューマッハーの順でコースに戻った。 プロストはセナをかわしてからはマシン本来の速さで飛ばしていく。 セナとシューマッハーのピットインの間にプロストはペースを上げ、 十分な間隔を築いた頃を見計らってピットイン。 プロストはこの後独走状態に入った。 ペースの上がらないセナは、シューマッハーに1~2秒間隔で追撃されるが、 オーバーテイクまでには至らない。 業を煮やしたシューマッハーは40周目に勝負に出る。 コンチネンタル・カーブで思い切ってセナのインに飛び込んだ。 しかしセナとの前後間隔が多少あったため、深くセナの懐には飛び込めず、 シューマッハーの前輪はセナの後輪と軽く接触。 セナは多少ふらついたもののバランスを取り戻してレコードラインに戻る。 シューマッハーはここでスピンしエンジンが止まりリタイア。 この時は少々強引だったような気がしたが、シューマッハーはこのことを教訓とし、 この後セナに対し無理にコース上で抜くのではなくピット作戦によって対抗し、 セナを逆転するレースも見られるようになる。 ピット作戦は後の彼のスタンダードな戦法となっていく。 レースは終盤、激しい雨が落ちてくる。 雨を嫌うプロストと雨を得意とするセナ…。 最後にまた見せ場がやってくるかとも思われたが、 プロストとセナの差が大きく開いていて、残り周回数も少なすぎた。 結局、プロスト、セナともにスリックタイヤで走り切り、開幕戦を終えた。 結果的にはプロストの圧勝に終わったが、セナはトラブルに苦しみながらも 現状のマクラーレンのポテンシャルを100%以上引き出し、 セナらしいプロストとの攻防も見ることができた。 1993年もウイリアムズ独走なのか? しかしセナのマクラーレンもエンジンこそ非力であるが、 軽いフォードエンジンに変わったことでマシンバランスは向上し、 セナはこの後も周囲の期待以上のドライビングを見せるのであった。 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
PP |
アラン・プロスト | ウイリアムズ・ルノー | 1'15"696 |
2位 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・フォード | 1'15"784 |
3位 |
ミハエル・シューマッハー | ベネトン・フォード | 1'17"261 |
4位 |
デイモン・ヒル | ウイリアムズ・ルノー | 1'17"732 |
5位 |
ジャン・アレジ | フェラーリ | 1'18"234 |
6位 |
J・J・レート | ザウバー | 1'18"664 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
優勝 |
アラン・プロスト | ウイリアムズ・ルノー | 1゚38'45"082 |
2位 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・フォード | 1゚40'04"906 |
3位 |
マーク・ブランデル | リジェ・ルノー | 1Lap |
4位 |
クリスチャン・フィッティパルディ | ミナルディ・フォード | 1Lap |
5位 |
J・J・レート | ザウバー | 2Laps |
6位 |
ゲルハルト・ベルガー | フェラーリ | 3Laps |
FL |
アラン・プロスト | ウイリアムズ・ルノー | 1'19"492 |