F1はヨーロッパに戻ってきた。当初、大分県のオートポリスでの「アジアGP」が予定されていたが、
オートポリスが破産したため、イギリス・ドニントンパークサーキットで「ヨーロッパGP」として開催された。 金曜予選は雨だったが、トップタイムをマーク。MP4/8がウエットコンディションと相性がいい。 土曜日は終始晴れていたが、午後になってマシンのフィーリングが変わったのか、 珍しく午前中のタイムさえ更新できず4番手に沈む。 このレースからベネトンが新車B193Bを投入し、 フォードの最新エンジンともあいまって、以後シャシー、エンジン性能で優位なベネトン・シューマッハーが マクラーレン・セナの前を走ることが度々見られるようになる。 決勝レースは再び雨がぱらつく変わりやすい天気。 スタート直後、セナは若干遅れてベンドリンガー(ザウバー)に抜かれ5位に落ち、 さらにシューマッハーに幅寄せされコースの一番アウト側に追いやられてしまった。 しかし1~2コーナーにかけて一瞬でシューマッハーのインに入り4位へ。 続く大きくうねりながら下っていく左コーナーで、 誰も通らないようなアウトラインからベンドリンガーを一気にかわし3位。 セナの勢いは止まらず、ヒル(ウイリアムズ)をマクリーンズコーナーで捕らえ2位。 さらにメルボルンヘアピンではトップを走るプロスト(ウイリアムズ)をも抜き去った。 コース幅が狭く雨でスリッピーな路面をセナだけは全く違うラインを走り、 たった1周でベンドリンガー、シューマッハー、ヒル、プロストをパスし1位でコントロールラインを通過した。 この時点でライバル達の戦意を失わせ、勝負は決まった。 一歩間違えれば即スピンという状況の中、セナはリスクをも自らのアドバンテージとして生かし、 完全にマシンをコントロールした。そのドライビングは芸術の域に達していた。 2周目以降も小雨の中、セナだけは異次元の速さでプロスト以下を引き離していく。 雨が止み路面が乾いてくるとプロストのペースが上回ってきたが、 セナは周回遅れのマシンを果敢に素早くパスし、プロストとの差を維持していった。 純粋なマシンの力とラップタイムペースではウイリアムズのプロストに分があったが、 雨の中という特異なコンディションで、 セナのドライバーとしてのポテンシャルと他者との違いを垣間見れたような気がする。 その後、雨は降ったり止んだりを繰り返し、タイヤ交換のためピットは混乱を極めた。 プロストはギアボックスのトラブルを抱えていたが、全く勝機が無かったわけではなかった。 34周目、セナがピットインするがタイヤのナットが噛み合わず20秒ものタイムロス。 プロストがトップに立ったのだ。 しかしその後プロストは天候変化に翻弄されすぐにピットインし、労せずして セナが再びトップに躍り出る。結局、合計7回もピットインしたプロストに対し、 セナは適切な状況判断で合計5回のピットストップに抑えタイムロスを最小限に食い止めた。 2位のヒル以外は周回遅れとなりセナの完勝で終わった。 雨の日はマシンの差が縮まりドライバーの腕がより重要視される。
バリチェロは一時はウイリアムズ勢の前の2位を走行。 3位走行中の71周目に燃圧低下のためストップしてしまったが、 その雨中での走りは注目に値した。 この後も彼は何度となく雨の中で素晴らしい走りを見せることとなる。
レース後の記者会見で、自らのマシンのトラブルを言い訳するプロストに対して、 セナは「なんならマシンを取り替えっこするかい?」の一言。 これでセナの勝利はより完全なものになった。 ちなみにセナが記録したFLは、ピットインしようとしたがタイヤの準備ができてなくて、 そのまま通り抜けた周回のものである。 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
PP |
アラン・プロスト | ウイリアムズ・ルノー | 1'10"458 |
2位 |
デイモン・ヒル | ウイリアムズ・ルノー | 1'10"762 |
3位 |
ミハエル・シューマッハー | ベネトン・フォード | 1'12"008 |
4位 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・フォード | 1'12"107 |
5位 |
カール・ベンドリンガー | ザウバー | 1'12"738 |
6位 |
マイケル・アンドレッティ | マクラーレン・フォード | 1'12"739 |
ドライバー |
チーム |
タイム・備考 |
|
優勝 |
アイルトン・セナ | マクラーレン・フォード | 1゚50'46"570 |
2位 |
デイモン・ヒル | ウイリアムズ・ルノー | 1゚52'09"769 |
3位 |
アラン・プロスト | ウイリアムズ・ルノー | 1Lap |
4位 |
ジョニー・ハーバート | ロータス・フォード | 1Lap |
5位 |
リカルド・パトレーゼ | ベネトン・フォード | 2Laps |
6位 |
ファブリツィオ・バルバッツァ | ミナルディ・フォード | 2Laps |
FL |
アイルトン・セナ | マクラーレン・フォード | 1'18"029、ピットロード通過周 |