1993年 ヨーロッパGP


1993年4月9-11日
イギリス ドニントン・パーク サーキット

予選:4位 決勝:優勝(38回目)


F1はヨーロッパに戻ってきた。当初、大分県のオートポリスでの「アジアGP」が予定されていたが、 オートポリスが破産したため、イギリス・ドニントンパークサーキットで「ヨーロッパGP」として開催された。

金曜予選は雨だったが、トップタイムをマーク。MP4/8がウエットコンディションと相性がいい。 土曜日は終始晴れていたが、午後になってマシンのフィーリングが変わったのか、 珍しく午前中のタイムさえ更新できず4番手に沈む。

このレースからベネトンが新車B193Bを投入し、 フォードの最新エンジンともあいまって、以後シャシー、エンジン性能で優位なベネトン・シューマッハーが マクラーレン・セナの前を走ることが度々見られるようになる。

決勝レースは再び雨がぱらつく変わりやすい天気。 スタート直後、セナは若干遅れてベンドリンガー(ザウバー)に抜かれ5位に落ち、 さらにシューマッハーに幅寄せされコースの一番アウト側に追いやられてしまった。

しかし1~2コーナーにかけて一瞬でシューマッハーのインに入り4位へ。 続く大きくうねりながら下っていく左コーナーで、 誰も通らないようなアウトラインからベンドリンガーを一気にかわし3位。 セナの勢いは止まらず、ヒル(ウイリアムズ)をマクリーンズコーナーで捕らえ2位。 さらにメルボルンヘアピンではトップを走るプロスト(ウイリアムズ)をも抜き去った。

コース幅が狭く雨でスリッピーな路面をセナだけは全く違うラインを走り、 たった1周でベンドリンガー、シューマッハー、ヒル、プロストをパスし1位でコントロールラインを通過した。 この時点でライバル達の戦意を失わせ、勝負は決まった。 一歩間違えれば即スピンという状況の中、セナはリスクをも自らのアドバンテージとして生かし、 完全にマシンをコントロールした。そのドライビングは芸術の域に達していた。

2周目以降も小雨の中、セナだけは異次元の速さでプロスト以下を引き離していく。 雨が止み路面が乾いてくるとプロストのペースが上回ってきたが、 セナは周回遅れのマシンを果敢に素早くパスし、プロストとの差を維持していった。 純粋なマシンの力とラップタイムペースではウイリアムズのプロストに分があったが、 雨の中という特異なコンディションで、 セナのドライバーとしてのポテンシャルと他者との違いを垣間見れたような気がする。

その後、雨は降ったり止んだりを繰り返し、タイヤ交換のためピットは混乱を極めた。 プロストはギアボックスのトラブルを抱えていたが、全く勝機が無かったわけではなかった。 34周目、セナがピットインするがタイヤのナットが噛み合わず20秒ものタイムロス。 プロストがトップに立ったのだ。

しかしその後プロストは天候変化に翻弄されすぐにピットインし、労せずして セナが再びトップに躍り出る。結局、合計7回もピットインしたプロストに対し、 セナは適切な状況判断で合計5回のピットストップに抑えタイムロスを最小限に食い止めた。 2位のヒル以外は周回遅れとなりセナの完勝で終わった。 雨の日はマシンの差が縮まりドライバーの腕がより重要視される。



また、セナとともにこの雨を利して健闘したドライバーがいた。 ブラジル出身のルーベンス・バリチェロである。 バリチェロは、ただの同郷の「セナの後輩」ではなく、 カート時代からセナに面倒を見てもらったそうだ。 いわゆる、師弟関係みたいなものだったのだろうか。

バリチェロは一時はウイリアムズ勢の前の2位を走行。 3位走行中の71周目に燃圧低下のためストップしてしまったが、 その雨中での走りは注目に値した。 この後も彼は何度となく雨の中で素晴らしい走りを見せることとなる。



セナはまた一つF1の歴史に伝説を残した。 おそらくあのオープニング・ラップはF1史上最も偉大な瞬間として、 後世まで多くの人達によって語り継がれることだろう。 そこには数字では表せない感動があった。

レース後の記者会見で、自らのマシンのトラブルを言い訳するプロストに対して、 セナは「なんならマシンを取り替えっこするかい?」の一言。 これでセナの勝利はより完全なものになった。

ちなみにセナが記録したFLは、ピットインしようとしたがタイヤの準備ができてなくて、 そのまま通り抜けた周回のものである。



予選結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
PP
 アラン・プロスト  ウイリアムズ・ルノー  1'10"458
2位
 デイモン・ヒル  ウイリアムズ・ルノー  1'10"762
3位
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1'12"008
4位
 アイルトン・セナ  マクラーレン・フォード  1'12"107
5位
 カール・ベンドリンガー  ザウバー  1'12"738
6位
 マイケル・アンドレッティ  マクラーレン・フォード  1'12"739


決勝結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
優勝
 アイルトン・セナ  マクラーレン・フォード  1゚50'46"570
2位
 デイモン・ヒル  ウイリアムズ・ルノー  1゚52'09"769
3位
 アラン・プロスト  ウイリアムズ・ルノー  1Lap
4位
 ジョニー・ハーバート  ロータス・フォード  1Lap
5位
 リカルド・パトレーゼ  ベネトン・フォード  2Laps
6位
 ファブリツィオ・バルバッツァ  ミナルディ・フォード  2Laps
 
     
FL
 アイルトン・セナ  マクラーレン・フォード  1'18"029、ピットロード通過周




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