1994年 ブラジルGP


1994年3月25-27日
ブラジル アウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェ(インテルラゴス)

予選:PP(63回目) 決勝:リタイア


セナは長年慣れ親しんだマクラーレンを離れ、ウイリアムズ・ルノーに移籍した。 ウイリアムズの過去2年間の異次元の速さを考えれば、セナ圧勝とも予想されたが、 この年からアクティブ・サスペンションやトラクション・コントロールなどのハイテク機器に規制がかかる。

ウイリアムズのマシンデザイナーで空力の鬼才、エイドリアン・ニューウェイは ハイテク規制によるアドバンテージ低下を補おうとエアロダイナミクスを追求したマシンを開発するが、 その結果、非常に神経質で扱いにくいマシンになってしまった。 さらにステアリングの位置や大きさ、ブレーキシステム等も慣れ親しんだマクラーレン時代のものとは異なり、 セナにとってはとてもドライブしにくいマシンだった。

予選では金曜、土曜共に最速。しかし安定感のあるシャシーと、 ルノーとのパワー差を感じさせないフォードのニューエンジン、ゼテックRを擁する、 ベネトン・シューマッハーが0.3秒差につける。 しかし逆に言うと、セナだからPPを奪えたのかもしれない。 少なくとも前半戦は、総合力ではベネトンの方が上で、 さらにシューマッハーの成長も見逃せないほど著しかった。

決勝がスタートすると、セナは無難に首位を守る。 シューマッハーはアレジ(フェラーリ)に1コーナーを奪われたものの、 2周目に抜き返し、セナとシューマッハーは2秒前後の差でマッチレースを展開していく。

このレースからレース中の給油が行われる。21周目、セナ、シューマッハー共に同時ピットイン。 ウイリアムズのピット作業はミスなく迅速に思えたが、ベネトンはそれ以上に「異常に」速かったのを覚えている。 ベネトンは、後のドイツGPでのピット火災において、給油装置に細工をしていたことが判明。 その給油装置がこのブラジルでも使われていたかどうかはわからないが…。

ちなみに給油装置の不正に加え、ベネトンのシューマッハ―のマシンにだけ、 禁止されているトラクション・コントロールに近い装置を搭載しているとの疑惑も後に浮上。 こちらは証拠不十分とされたが、セナはかなり早い段階でこの不正を感じていたという…。

今度はシューマッハーがセナをリードし、その差を広げていく。オンボードカメラでの2台を比較すると、 シューマッハーのマシンが非常に安定していたのに対し、セナがいかに神経質なマシンと格闘していたことがわかる。 44周目、2度目のピットインではセナが先に動く。シューマッハーも1周後に給油するが、順位に変動はない。

シューマッハーとセナの差は一時、10秒近くまで開く。 しかしセナは必死の追走で少しずつ、かつ確実に差を詰めていた。 そして残り15周となったところで5秒差まで接近し追いつくのは時間の問題とも思われたが、 56周目、最終コーナーへと上っていくジュンカコーナーで単独スピン、エンジンがストールしレースを終えた。

「ファーストギアに戻そうとしたんだけれど電子制御機構に何らかの問題が生じて、 確かエンストしたときにはサードかフォースに入っていたんじゃないかと思う。」 (「手記 アイルトン・セナⅡ」より)

表面的にはセナのミスによる単独スピンのようにも見えたが、 実際には不安定なシャシーに加え、電子制御の駆動系の問題が絡んだスピンだった。 次のパシフィックGP予選・フリー走行でもセナ、ヒルが同じようなスピンを喫するなど、 ウイリアムズのマシンの根本的な欠陥を露呈した結果になった。

序盤戦、ウイリアムズのマシンは限界点が低く非常にナーバスなものであり苦戦を強いられたが、 セナは自らの限界ギリギリのドライビングとともに、マシン開発作業にも精力的にこなしていくのだった。 しかしそれが結果となって顕れてくるのはセナが亡くなってからだった。 中盤戦以降のウイリアムズの復調には、セナの働きが非常に大きかったという…。



予選結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
PP
 アイルトン・セナ  ウイリアムズ・ルノー  1'15"962
2位
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1'16"290
3位
 ジャン・アレジ  フェラーリ  1'17"385
4位
 デイモン・ヒル  ウイリアムズ・ルノー  1'17"554
5位
 ハインツ・ハラルド・フレンツェン  ザウバー  1'17"806
6位
 ジャンニ・モルビデリ  フットワーク・フォード  1'17"866


決勝結果

 
ドライバー
チーム
タイム・備考
優勝
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1゚35'38"759
2位
 デイモン・ヒル  ウイリアムズ・ルノー  1Lap
3位
 ジャン・アレジ  フェラーリ  1Lap
4位
 ルーベンス・バリチェロ  ジョーダン・ハート  1Lap
5位
 片山 右京  ティレル・ヤマハ  2Laps
6位
 カール・ベンドリンガー  ザウバー・メルセデス  2Laps
リタイア
 アイルトン・セナ  ウイリアムズ・ルノー  55周、スピン
 
     
FL
 ミハエル・シューマッハー  ベネトン・フォード  1'18"455




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